2025年1月に発表されたWWEとTNAのパートナーシップ契約。
主にNXTとTNAの間で選手たちが行き来し、経験を積むことが目的とされるこのパートナーシップは既にプロレス界に影響を及ぼしており、先日はネイサン・フレイザー&アクシオムとコーラ・ジェイドがTNA・Genesisに登場。TNA世界王座チャンピオンのジョー・ヘンドリーはジョン・シナとの対戦を希望しています。
WWEは、なぜこのパートナーシップを実現させたのでしょうか。レスリング・オブザーバーのデイブ・メルツァーは、いくつかのポイントを指摘しています。
TNAの知名度向上
今回のパートナーシップにより、TNAにはWWE所属選手が出場可能となりました。こうしたWWEの支援により、TNAがプロレス業界第2位の団体になる可能性があります。現時点ではAEWに視聴率で及ばないものの、TNAが北米でのテレビ放送を強化することができれば、数字を向上することができます。
将来的なTNA買収
2018年にAEW社長のトニー・カーンが、2024年にTNA元社長のスコット・ダモールが検討しながらも実現しなかったTNA買収。WWEの資金力があれば実現は容易でしょうし、パートナーシップにより関係を強化した上で買収に乗り出せば現場の混乱も抑えられるかもしれません。
しかし、WWEの親会社TKOは、傘下の総合格闘技団体UFCが独占的地位を利用して選手の報酬を抑制したとする集団訴訟で、2024年9月に多額の和解金を支払ったばかり。こうした背景から、少なくとも2028年までは新たなプロレス団体を買収することが困難な状況にあるそうです。
関係者の間では、WWEはTNAを別会社として所有することを目標としている……と考えられているようです。
AEWの海外戦略の阻止
Netflixとの大型契約を締結したWWEは、2025年1月からRAWをNetflixでの配信番組に移行しました。これにより、世界各国のテレビ局から「RAWを自局の番組として放送する」という選択肢が消滅。そこにAEWが目をつけ、海外戦略を推進する可能性があります。
WWEには、TNAとのパートナーシップによりTNAの海外戦略を支援し、AEWとテレビ局の契約を阻止する狙いがあるといいます。
AEWはワーナー・ブラザース・ディスカバリー系列のストリーミングサービスMAXやTriller TVなどのネット系配信プラットフォームを通じて視聴可能範囲を拡大中。その一方で、WWEとTNAはインド市場に力を入れており、TNAはEurosport Indiaとの複数年契約を結んでいます。
パートナーシップはTNAの明るい未来に繋がるのか?
最後に、メルツァーは「過去にWWEとの提携を経験した業界関係者たちは、今回とWWEとTNAの提携を楽観視していない」と報じています。WWEが利益を得る一方で、提携団体は良い結果を得られなかったためだ、といいます。
しかし、これまでとの大きな違いは、クリエイティブの責任者がビンス・マクマホンではなくHHHだということ。WWEは以前と異なるビジョンを持っているとされており、結末も変わってくるかもしれません。
今回のパートナーシップ契約は、2024年初頭にスコット・ダモール元社長が解任されなければ実現しなかったかもしれません。新経営陣の舵取りにより混乱は少なからず存在し、PCOはそれに激怒しました。メルツァーは、「このパートナーシップはWWEにとって堅実なビジネス戦略だ」と結論付けましたが、TNAの経営陣の動きにも注目しておきたいところです。
(Wrestling Observer, Wrestling Inc)