2019年10月に放送がスタートしたAEW・Dynamite。WWE・NXTとのテレビ戦争「ウェンズデー・ナイト・ウォーズ」は、Dynamite優勢の状態で終結しました。
NXTと比べるとレイティングの成績が優れているDynamiteですが、WWEのメインブランドとの間には大きな差があります。番組の内容が良くないこともありますし、失敗も少なくありませんでした。しかし、団体にとって、ウェンズデー・ナイト・ウォーズを乗り越えたことは大きなマイルストーンになったことでしょう。
AEW社長のトニー・カーンは、放送開始から現在までの道のりについて、次のように語っています。
2019年末のDynamiteはNXTと接線でね。これはつい最近まで続いてたんだけど、特にこの時期は、間違いなく「ファンが『見たい』と思うものを提供できていなかった時期」だった。良いスタートを切ることができたし、いろんな人がいいアイデアを持っていたんだけど、その量があまりにも多すぎたんだ。自分の力では捌ききれないような、圧倒されてしまう状況だった。
そこで、俺は自分でアイデアを出すことを心に誓ったんだ。みんなからの提案も受けるけど、「これだ」と思うものだけを実行するようにしたし、もっと緻密な仕事をしようと決意した。この決意が番組を大きく変えたんだ。より集中し、より組織的に取り組んだおかげで、評判の良いショーを何度か放送できた。カムバックできたんだよ。2019年末から2020年初頭にかけて、レイティングの数字も良くなった。誇りに思っていたよ。
順調に物事が進み始めていた。しかし、そのタイミングで新型コロナウイルスのパンデミックが起きてしまったんだよね。これまではフルメンバーで番組を作っていたのに、30%以下の人員でなんとかしなくてはならなくなった。2020年の4月は、スター選手でさえ番組に出せないような状態だった。レイティングではNXTに勝っていたけど、視聴率そのものは理想を下回っていたよ。ドッグファイトの連続だったね。
勢いを維持したまま番組を作り続けなければ、テレビ局への義務を果たせなくなる。番組の提供が途絶えてしまうことだけは絶対に避けなければならなかった。AEWの生命線である「テレビ局との契約による収益」がなくなってしまえば、スタッフの生活に影響が及んでしまうからね。そこで考えたのは、6〜7週の放送に耐えられるだけの試合を短時間で収録することだった。ストーリーを活かした斬新な方法で乗り越えられたことは誇りだ。これは起業家としての教訓だね。たとえリソースが限られていたとしても、今あるものを最大限に活用することで、最高の作品を生み出すことができるかもしれないんだ。
この時期の番組制作に大きく貢献してくれていたのがブロディ・リーだ。彼の存在は魅力的だし、ロッカールームでもリーダーとして頑張ってくれていた。あらゆる意味で、最も重要なスターの1人だったんだよ。しかし、彼は亡くなってしまった。最悪の状態だったんだ。現役復帰が叶わないことは我々もわかっていたんだけど、彼は命がけで病と戦っていた。我々も、彼や家族たちのために祈り、希望を持ち、寄り添った。彼らはAEWファミリーの一員になったけど、この「ファミリー」という言葉は決して軽い気持ちで使っているわけじゃない。ショーの時だけではなく、彼らが最も困難な時にも一緒にいたし、彼らのために正しいことをしようとしていた。
ビジネスにはいろんなことが起こる。愛する人や、チームメンバーを失うこともあると思うんだ。これはみんなにとって重要なことだから、ファミリーであることを忘れず、みんなのことをサポートしなければならない。俺は、ブロディ・リーのトリビュート・ショーをやらなければならない、という大きなプレッシャーを感じていた。どのPPVや放送よりも、あの日の番組のことを誇りに思っているし、ファンの皆さんにも本当に感謝しているよ。あれはリアルだった。パンデミックが起きていることなんて忘れてしまうような時間だったよ。Dynamiteにとって本当に特別な瞬間だったし、恐ろしい状況に対して最善を尽くそうとした1つの例にもなったんだ。